鏡台

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鏡台のある部屋の窓を開け放つ。冷たさを感じるも、澄んだ空気に部屋の中の滓が浄化されるようだ。窓越しに空を見上げれば、雲ひとつない見事な秋晴れだ。こんな日は俳句のヒントを探しにちょっと出かけたい気分にもなるのだが、そろそろ来るであろう待ち人の為に茶菓子を用意に部屋を後にする。 「ほらっ!ババに言われたでしょ。目、閉じなさい!」 鏡台のある部屋に響く嫁の声。対して孫は「はーい」と返事を明るく返すも、目はしっかり開けて鏡に映る自分の顔をマジマジと見つめているではないか。さて困ったな・・・と思案する私に振り向くと 「ババ。僕にヒゲが生えてきたよ」 楽しそうに言うその姿に私も嫁も思わず笑いが止まらない。 鏡に映るのは、サラサラの黒髪、額には赤い捻り鉢巻。頬には青・赤・白の横三本線で彩られ、服は少し大きめの黒の半被。 それら全ては村に伝わる風習の一環だ。特に神が乗るとされる神輿を担ぐ者は全て洋服、鉢巻、そして顔の化粧の順番が決められているのである。さらに化粧を施される間、神輿を担ぐものは目を閉じて身を落ち着かせる必要があるというが、今ではそんな細かい事を知っている人は村内でも私を含め少数であろう。かく言う私も頬に施す化粧の意味をよく知らない。なにやら仏教の五色から来ているらしいとはきくが、現存してる村人で意味を知る人は恐らく誰もいないのではないかという噂もあるほどだ。
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