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「神様なんていない。それでも祭りは必要なんだ。要は体裁だよ、体裁」
あれはいつの事だったか。秋祭りのはじけた宵に男衆が話していた言葉が甦る。確かにその頃には顔に決まった化粧を施して参加する者はごく僅かであった。また本来は満月の夜に行う秋祭りも、数年前から満月か否か関係なく10月の第4週の土曜日に開催と変更された。
もしかすると、私の知らないところで色々と変わっているのかもしれない。しかし細かい事は私にはわからない。だが余程大きな変化が無い限り、祭りがなくなるよりはいい。変化の恩恵を受けているのも事実だ。それは土曜日開催に変わったことを知った息子が、盆正月以外にはじめて孫を連れて帰省してきた。
「息子に神輿を担がせたいんだ。俺はいいから、息子に正装頼むわ」
そういい残して息子は祭りの準備へと一足先に家を出ていき、こうして孫と嫁と三人で鏡台を囲んでいる最中である。
息子が仕来りを覚えていることにも驚いたが、孫に正装をというのには何となく驚いた。パソコンを使う仕事に就いた息子は、そんな風習を笑うのではないかと思ったからである。
「あと2箇所だから。神様に怒られないようがんばろうか」
「そうそう。神様が怒ってお神輿担げなくなるわよ。それでもいいの」
私の言葉に嫁が後を続ける。すると慌てて目を固く閉じ、口もあわせてギュッと結ぶ。そのやり取りに嫁は申し訳なさそうに無言で頭を下げた為、私は気にしていないという意味を込め軽く笑いかけた。小学校二年生の子供に静かに知ろうというのは土台無理な話である。
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