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過去のエピソードはつきものだ
「早紀、中3の時引っ越してきてからの付き合いなんだけどさ」
芽衣が話始める。
「転校生であの容姿でってなるとチヤホヤされるわけ」
前を歩く二人を見つめながら芽衣は続ける。
「それをさ、やっかむ人ってどこにでもいるんだよね。本人は何も悪いことしてないのに孤立しちゃいそうになって」
康太は芽衣の横顔を見ながら話を聞いている。
「告白もされたみたいなんだよね。でも、結局はかわいい子を連れてれば自慢できるみたいな人ばかりでさ。すっかり人間不信ってやつ」
何かを思い出すように芽衣はつづける。
「それでも、早紀は学校に来てた。その小さい背中がすごくたくましく見えて、声をかけたのが仲良くなったきっかけかなー?」
楽しそうな早紀の笑顔を見ながら芽衣は続ける
「高校にはいれば、やっかむ人もいなくなるし、新しい出会いもあるよねって言って1年。とうとうみつけたみたいね」
「・・・・・」
「今日はね、この人だったら自分は大丈夫ってあたしに見てほしかったんだと思うんだ」
そして、いままで黙っていた康太が口を開いた。
「で、どうですか?芽衣さん的には」
「そうだなー。この人なら早紀を任せられるって思うな」
「そうですかー?本当はどうしようもない奴かもしれないですよ」
その言葉をきいた芽衣は康太の方を見つめて、
「こんなしっかりした友達がいる人だもの。心配ないよ」
と、にっこり笑いながら答えた。
その姿にちょっと戸惑った康太。
「そ、そんなにやすやすと信じちゃっていいんですか?」
「だって、あんな面倒な審判の仕事をやってくれたり、友達の頼みで知らないおねぇさんの相手してくれたり、そんな人が悪い人のわけないよ」
明るい屈託のない笑顔の芽衣。その姿に康太はなにか感じずにはいられなかった。
「今日は楽しかった。どうもありがとう」
「じゃ、また学校で」
駅で別れようとする勇樹たち。
「あー、あたしおかぁさんの頼まれものがあって、買い物しなきゃいけないからゴメン大野君、早紀のこと送ってってもらっていいかな?」
「え?めい、そんなこと言ってなかったじゃん」
そんな早紀に小声で
「いいから、いいから」
と背中を押す。
「え?あ、えーっと」
少し戸惑っている勇樹に
「あ、おれもちょっと用事があるからここで解散するわ。またな」
と康太も勇樹から離れ歩き出す。
「じゃ、送ります。早紀さん、行きましょう」
早紀は何度か芽衣の方を振り返りながら勇樹の隣を歩いていく。
芽衣はニコニコして二人を見送った。
「さーてっと。あたしも帰るとするかな」
その後ろから
「素晴らしい気づかいですよね」
と康太が現れた。
「わぁ。びっくりした。そっちこそ。なかなかの演技で」
「いえいえ、そちらほどでは」
と顔を見合わせて笑いあった。
「あの、よかったらお近づきのしるしにLINE交換しません?」
「え?」
「アイツが困ってそうだったらこっそり相談させてもらうんで」
「あはは。そういうこと。いいよ」
「また、簡単に信じちゃっていいんですか?もしかしたら、そう言っていろんな女の子の連絡先、聞いてるかもしれませんよ?」
冗談交じりで康太が言う。芽衣はそんな様子を気にもとめず
「自分からそういう人ほど、そんなことしてないもんだよ。はい送信っと」
と一括させてしまった。その様子を見て康太は小さく微笑んだ
「くくく、面白い人ですね。芽衣さんって」
「うん。よく言われるー」
そしてまた康太は笑顔を見せる。その姿をかわいいと思ってしまった芽衣だった。
「じゃ、また機会があったら」
「機会があったらね」
そして、お互い別の方向へ歩き出した。
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