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「においは、パークを出てすぐの路地裏まで続いていました。そこに、大勢が争った跡があって、そこでぷっつりとにおいが途絶えてしまったのですわ」
「なんだって?」
ようやく、これは容易ならぬことなのかも知れないとミーシャは思い始めていた。
お貴族様は、基本同じ一族以外との結婚を認めないものだから、世間知らずな坊ちゃん嬢ちゃん同士、手に手を取り合ってと言うことになったのだろうけれど、こんなお嬢のお相手だ。ひ弱で金持ちの坊ちゃんに違いない。お嬢よりも先に、身代金目当てに誘拐されてしまったのじゃないかしら。
「わたくし、その場に残っていた他の者の臭いを辿ってみようとしたのですけれど、やがて雑踏に紛れて分からなくなってしまいましたの。あの方の匂いなら、決して間違いようは無いのですけれど」
クリスティーナは、自分の不甲斐なさを責めるようにうなだれて、
「そして、帰り道さえ分からなくなってまごついているわたくしに、隻眼のトラジロウさんとおっしゃる方がお声をかけて下さり、こちらを教えて頂いたのです。困っている者を放っておけない性分の姐御だから、きっと力になってくれるだろう――て」
あの野郎余計なことを。ろくな依頼人を回して来やしない。
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