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回想
ミーシャの本当の名は、ミシェル・マコット。
だが、その名は捨てた。
祖父も叔父夫婦も、従弟妹達までもが皆、ミシェルのことを蔑み、召使いのように扱った。
彼女は、母が結婚前に「どこの馬の骨とも分からぬ」男との間にもうけた娘だったからだ。
駆け落ちしたものの裏切られ捨てられて、一人取り残された母は仕方なく実家でミシェルを産み、それから唯々諾々と好きでも無い男の元に嫁がされ、そこで五人の子をもうけ、そして、死んだ。
そんなわけで父母の顔を知らないが、聞く所によるとミシェルは母と瓜二つであるらしい。ブルーグレイに輝く被毛も、エメラルドの瞳も、決して従弟妹達に引けを取らなかったが、それでもやはり彼女に一族の名は与えられない。母が黙して語らなかったから父の名も分からず、家の名は一つだ。
祖父も叔父も、そんなミシェルを嫁に出すつもりは無く、一生飼い殺しにする気でいるらしかった。
ところがどっこい、貴族の子女の扱いを受けず、放任され、働かされて育ったミシェルは、密かに一人で生き抜く力を磨いていたのだ。
十五になった日に、家出をした。家の名など、ドブに捨ててやった。暖かく迎え入れてくれた路地裏の仲間達が呼んでくれた愛称を真の名とした。
だから、今のミーシャは正真正銘、ただのミーシャだ。
それでいい。
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