第壱章   蛙人間《ヘケト》

26/51
前へ
/59ページ
次へ
峻険(しゅんけん)の森】 夜とは打って変わって美しい峻険(しゅんけん)の森 川はせせらぎ 鳥はさえずる 緑の葉が生い茂り 色とりどりの実をつける 昨夜訪れた洞穴の前に佇むファッジ 足元の黒いシミをみつめている 不首尾者(フシュビモノ)のあった場所には黒く変色した跡が残っていた そこへ ペタペタと湿気を含む規則的な音が近付く 「遅くなって悪かったな蛙人間(ヘケト)」 洞穴に向かって詫びると昨日襲いかかって来た蛙人間(ヘケト)が両手をだらんとして洞穴の入り口に立っている 〈…遅すぎたなファッジ…〉 「何があった」 〈…血を抜かれた…〉 「血を?誰に」 〈…わからない。小さな非生命体〉 「非生命体?」 〈…この森も終わりだ…堕ちるところまで堕ちた…〉 「待て、結論を()くな。他の蛙人間(ヘケト)に被害は?」 〈…血を抜かれただけだ〉 「誰も死んでないんだな」 〈…死んでいない〉 少しだけ安堵するファッジだが、では何故森に訪れた人々を襲うのか疑問が残った。 「昨夜人を襲ったのは何故だ」 〈…この森には人ならざるものがいる…一見…人と見分けがつかない〉 「人ならざるモノ?」 何か妙な気配を感じ、ハッとあたりを見回すファッジ。 「なにか来る」 ガサガサっと草を掻き分ける音がする。 〈…元凶はあいつらだ…神への冒涜だ…〉 ファッジの後ろに隠れ、怯える蛙人間(ヘケト) 本当は臆病で大人しい本来の姿に戻っていた 「大丈夫だ、私がいる」 腰の隠しホルダーから携帯クナイを取り、カシャンと刃先を光らせる。 洞窟を背に木々の生い茂る隙間を食い入るように注視した。    ガサガサ…    ガサガサ…
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加