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忙しさもある程度落ち着いてきた頃、女の人二人組に声をかけられた。
最初はこの辺の道案内だったが……
「大学生?」
「あ、ハイ」
「あたし達も!あたしら3回生だけど、年下?」
「そっすね」
「やっぱりー!顔は可愛いけど、イイ体してるよねー」
「うんうん!意外と筋肉質!」
はぁ!?
きゃぁきゃぁ言いながら、暑くて上半身裸だった俺の胸を触り出した。
「ちょっ…待っ……」
バシャッ
「え……」
「きゃあー!何すんのよ!?」
「冷たー!」
驚いて振り向くと、ひっくり返ったかき氷の容器を持ったゆいら。
「すみません……手がすべってしまって……」
女の人達は一瞬言い返そうとしたものの……ゆいらの顔をマジマジと見て諦めたように立ち去った。
そりゃそうだ……ゆいらの可愛さに勝てる女の人なんて正直いない。
「……ごめん……片付けるね!」
「あっ待って……!」
そこにちょうどひなと青木さんが交代に来て、それ以上話は出来なかった。
「じゃあひな、後頼むな」
「うん!あ、リヒトこれ」
ひなが差し出したのはイチゴのかき氷。
「好きでしょ?二人で食べなよ!あのビーチ今誰もいなかったよ!」
子どもの頃からよく来ていた、人の少ない砂浜。
借りてきたパラソルを立ててその下に二人で座る。
あれからゆいらはずっと黙っていた。
「かき氷食べなよ。溶けるし」
「……さっきはごめんね」
「え?なんで?」
「私、嫉妬して……あんなことするなんて……」
「先にやったのは俺だろ?……俺のことも嫌だった?」
顔を覗き込むと、頬を染めて首を振った。
「……嬉しかった」
「俺も……ゆいらが嫉妬してくれて嬉しかった。あと、助けてくれてサンキュ」
そこで初めて笑ってくれて、半分溶けたかき氷を食べ始めた。
照れながら食べさせてくれて、俺にまで伝わりそうなぐらい緊張してる顔が可愛すぎて……
引き寄せられるように顔を近付ける。
最初はぎこちなかったキスも、今では目を閉じて受け入れてくれる。
触れる舌が冷たくて、少し甘い。
……これからはかき氷を食べる度に、思い出してしまいそうだ。
子どもの頃から大好きなかき氷が、特別なものになった夏だった。
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