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一 『総理大臣暗殺』
──時は二十世紀最後の春、二〇〇〇年四月。
所は南北関係が悪化し、北緯三十八度線を堺に緊張感が高まる朝鮮半島…。
を、宇宙目線で偵察衛星から監視する、東京都内のとあるマンションの一室。
「それで、その後の様子はどうだ?」
昼間だと言うのに分厚いカーテンを閉め切り、パソコンが一台と大型のモニターが乗ったデスク以外には何もない、だからガランとして薄暗い部屋に、太く落ち着いた男の声が響いた。
「それが、どうにも妙なんです──」
答えたのは、やはり男の声だったが、これは耳障りなくらいに、かすれている。
先日より北側がミサイルを配置し、いよいよ軍事行動突入も避けられないか、と囁かれている状況についての問答である。
「妙とは?」
「南に向けてミサイルを配置して以降、ピタリと動きを止めたままだった北側が、ついにはミサイルそのものを発射台から降ろし、そのまま沈黙を続けているのです」
──インターネットを用いれば、地球上のあらゆる場所の衛星写真を、いつでも誰でも簡単に、クリックひとつで見られる便利な時代である。
しかし忘れてはいけないのは、こうして我々凡人が直接的に触れることが可能な科学技術とは、時代の最先端からは脱落したものであると言うこと。
つまりそれは、一昔前の水準の技術であり、今現在の最新技術には到底及ばない旧式なのである。
本当の最先端科学技術は、凡人の手には届かぬ所、目には触れぬ所にあるもの。
なぜならば、それらの多くは軍事用に開発されたものであり、要するに、世には秘しておいた方が都合のいい人たちがいるのである。
──話を衛星写真に戻せば、本当の最先端は凡人が目に出来る旧式のものとは、比にならない程の発展を遂げている。
その性能は、とても宇宙にカメラがあるとは思えない高倍率高画質。
例えば細い路地を歩く人物を追跡し、それをライブ動画で中継することが可能であり、しかもその人物が履くスニーカーのメーカー名までが判別出来てしまう鮮明さであると言う。
無論これは、二〇〇〇年四月の時点での話であるが…。
そしてここにあるのは、その最先端の偵察衛星動画。
それを利用出来る立場にある二人の男たちは、つまり凡人ではない。
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