5人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ
そうして一通りの審査が終わると、和尚は重たい口調で言った。
「残念ながら、今のおぬしらでは忍び組に推薦するには足らん。今しばらく、修行を積ませた方が良かろう──」
これに小冬は噛み付いた。
「玉砕は覚悟の上です!」
さっき、一人前の忍びになった姿を両親の魂に見せたいだけだと言ったはずの小冬が、必死の顔で和尚に迫ったのだ。
「和尚様、どうか私たちを忍び組に推薦して下さい!」
和尚はギュッと眼を閉じて、そして静かに言った。
「せめて清太がおればな──」
「あの子は、忍びになる気はないようです。元々そのような考えだったのが、昨日のことで更にカタギへの憧れが強く固まったことでしょう…」
小冬の曇った声を聞きながら、和尚はチラと梟がとまるあすなろの木の枝に視線をやった。
梟のすぐ横に、その愛甲清太が座っているのだ。
「一つ賭けてみるか…」
和尚は祈るように呟いて、それから木の上の清太にも届くような大きな声で、四姉妹に命じた。
「おぬしら、今すぐに東京へ行け。そして忍び組になれ!」
○
──その夜、愛甲清太は、恋人の伊原梨沙を呼び出した。
雨は既に止んでいたが、代わりに濃い霧が立ち込め、二人が落ち合った甲賀と伊賀の真ん中辺り、その山中もまた、二メートル先が見えないほどの幻想的な世界だった。
「しばらく会いに来られないかも知れない」
硬い表情で唐突に言った清太に、梨沙は何も訊かずに頷いた。
「そう…」
梨沙は知っている。
昨日、清太の身内に起きた悲劇を──。
「信じてくれ。俺の夢は梨沙と一緒に平凡な幸せに包まれて暮らすことだ」
「わかってる」
乱暴なくらいにガッシと梨沙を抱き寄せた清太に、梨沙はすがるように激しく口付けを求めた。
最初のコメントを投稿しよう!