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どこまでもつづく一日
それはとても急のことだったので、家には私ひとりしか居ませんでした。
当時九歳だった私は、何のことやらわからずに、ただただ「このことを忘れまい」と目をひらき、耳をひらき、肌をひらき、そこにある空気まるごと呑みこみました。
毛羽立った古い畳。
化繊のカーテン。
夏の初めの水気を帯びた夕陽のひかり。
「だいじょうぶ。だいじょうぶ。死ぬことは、生きるもの固有の権利なのだから」
いつもと変わらぬつやつやとした頬で、ただ呼吸だけが、少しずつ薄くなっていきます。
「これは私の業なのに、まさかお前を巻き込むことになるなんてねぇ」
やわらかくがっしりした手のひらも、半分以上白くなった髪の毛も、隅から隅までつやつやとさせて、おばあちゃんは言いました。
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