どこまでもつづく一日

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 父も母も、姉も弟も、いたく悲しみました。  お葬式で白い花をおばあちゃんの顔の横に並べながら、私だけが涙を流していませんでした。ちいさな弟さえ、泣いていたというのに。  呑みこんだものを吐き出すために必要な言葉が、その時の私の中にはありませんでした。私が口にできたのは、「おばあちゃん、だいじょうぶだって」という、つたない一言だけでした。  あの時の姉の歳になり、あの時の母の歳になり、あの時の父の歳になりました。  それでもまだ私は、あの時呑みこんだものを、誰にも伝えられずにいます。でも、それでもいいのかもしれない、と思うようにもなりました。  姉が家族の誰にもわからない理由で深く傷ついたときや、弟が殺したいと口走るぐらい父を憎んだときや、何の前触れもなく母が起き上がれなくなったときや、父が長いこと笑顔を失ったときを経て、そう思うようになっていったのです。  それは、彼らが、守られていたからでした。  どんなときも、彼らが、守られていたからでした。 わけもわからないことで立ち上がれなくなる私たちが、わけもわからないことで立ち上がることができるようになる度に、私はあの日の欠片を感じました。
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