兄ちゃん、ツラ貸しな?

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-全ての音が消え、時間が止まったような錯  覚を起こした-  双方ともに、息を飲む。呼吸が………鼓動が止まったような気さえした。至近距離で絡む視線。後、数センチで唇が触れる距離。  今までで1番近い、互いの距離。あり得るはずのない体勢。スレンダー体型の天音と、引き締まった体型の千乃。身長は、千乃の方が若干高い。  吐息が交じり、体温が通い合うほどに近い。同じリズムを刻み、響く鼓動は、一体どちらのものなのかさえも、曖昧になっていた。  あり得ないはずの体勢、あり得ないはずの距離。天音と千乃は親友で、お互いに恋愛感情は皆無だ…………なのに。  天音は、自分が耳まで真っ赤になっているであろうことを、唐突に思い知った。顔に熱が集中しているのが、嫌でもわかってしまったからだ。  お互いに、そこそこ顔が整っているのは自覚していた。千乃は『抱かれたいランキング』上位であるし、天音に到っては『抱きたいランキング』1位なのだから。  けれど。お互いの顔を、こんなに間近でハッキリと見たのは、思えばこれが初めてだったかも知れない。  倒れた拍子に、天音が愛用している、太い青縁の伊達めがねは、床に転がっていた。色素が薄く、栗色がかったアッシュグレイの天音の瞳に、千乃は引き込まれそうになる。  考えるより先に、衝動が千乃の躰を突き動かし、千乃の唇が天音の唇に触れる。
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