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彼女らの先刻来の話題はよくある恋愛についてである。今はクラスでそこそこ目立たない女子生徒と、運動神経も勉強もそこそこいいのでまあまあ目立つ男子生徒との関係のことであった。話は当該二人の日頃の様子から周囲の噂話、互いの恋愛に関する漠然としたイメージを織り交ぜつつ尽きることがない。
セミロングの少女はこの学校でなくとも、街の大きな学校に行ってそこで恋愛をしてみたいと常々思っていた。三つ編みの少女は学内でも女子生徒に人気のある、物静かな二つ上の先輩に憧れていたが、話が彼の人へ及んでもそんな想いは隅によけて賑やかに友人とお喋りした。実はその物静かな先輩にも最近遂に恋人ができたらしいとの噂で、それは三つ編みの少女も知っていた。相手は彼女らより一つ上のスレンダーな先輩であり、その彼女も学内の男子生徒からそれなりに人気のある生徒であった。やさしくかわいらしい彼女には、セミロングの少女は珊瑚のような唇で話すというイメージを持っていた。三つ編みの少女はひとしきり笑ったあと目尻の辺りが朝焼けに霞がかかったように色づくのが印象的だと思っていた。
そういった話をしていると、ふと残照がしめやかな道路をほのかに照らし出していた。彼方からは、ガタガタと、古ぼけたブリキのようなバスが近づいてくる。少女らは立ち上がって傘とかばんを手に取り、話ながらバスのステップを上った。
夕暮れ時の雨は粒子の如くやわらかに、少女らの足下に宿る白い桜草を照らし出すように、その光をのこしていた。
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