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それから、僕らの逃避行は始まった。
いろんな所を見てまわった。広い草原、大きな建物、綺麗な花、澄んだ小川・・・。
見慣れた景色も、彼女と二人で見ると、いつもよりもキラキラと輝いて見えた。二人なら、どこまででも行ける気がした。
夜は二人で焚き火を囲みながらたくさん話した。
──そういえば、彼女に聞いた話の中によく緑色の液体のなかでたくさんの管に繋げられている夢を見るって言うのがあった。妙に生々しい夢だって言ってたけど、人造人間とかじゃあるまいし、ただの夢だと思う。
あの時、あの幸せな檻の中で、「連れ出して」って言った彼女の手を取って、本当によかったと思っている。たとえこの先、何が起ころうとも。
本当に幸せな数日間だった。
けど、やっぱりズルして手に入れた幸せって長くは続かないもんだね。
それまでもちょくちょく研究所の人っぽい人は見かけてたんだけど、上手く逃げ回ってたんだ。
そのうち諦めてくれないかなって。けど、さすがにその考えは甘かったみたい。
血眼になって──そりゃあもう、なんでそんなにってくらい必死で僕らを探してた研究員に、とうとう見つかっちゃってね。
僕ら子供がどう頑張ったって大人の足には勝てないからさ、なんとか撒こうって思ってすぐ近くの森に入ったんだ。
けど、僕も初めてはいる森だったからさ、迷っちゃって。
それでも必死で走ってたら、崖に出たんだよ。もうダメだなって思った。だって、前にはものすっごくギラギラした目で迫ってくる研究員、背後には崖だよ?
──けど、けどね。彼女が、震える手で僕の手をぎゅっと握るんだ。
「ねぇ、連れ出して」あの時、幸せな檻の中で彼女が見せた儚げな表情が、誤魔化すみたいに「なんでもない」って笑った彼女の表情が、脳裏にチラついた。
もう一度、彼女をあの檻に閉じこめるくらいなら。
もう一度、彼女にあんな表情をさせるくらいなら。
彼女の手を握り返して、僕は一歩を踏み出した。
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