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彼女は薬草を採り、僕は村に薬草を届けた。老夫婦が亡くなった今も、僕らの役割は変わらずに続いている。
あの山には僕ら以外は誰も立ち入れないから、もしまだ追っ手がいたとしても、彼女が見つかる心配はないはずだ。
「薬草届けに来ましたー!」
家の前で呼びかけ、出てきた人に薬草を手渡し、対価を受け取る。
これは大概が食べ物だが、時々日用品を貰ったりもする。
お金は貰わない。僕らが採る薬草は神聖なものだから穢してはいけないのだそうだ。
だが、お金を使うためには村を出なくてはいけないから、正直その制度はありがたかった。
もしかしたら、あの老夫婦が気を遣ってくれたのかもしれない。
次の家へ向かおうと一歩踏み出す。ふと空を見上げると、雲一つない青空が広がっていた。
決して裕福とは言えない。けれど、家に帰れば彼女がいて、おかえりなさいと笑ってくれる。
それも、あんな儚げな笑顔じゃなくて、無理に取り繕ったような笑顔じゃなくて。
最初の頃のように、太陽みたいな笑顔を見せてくれる。
それだけでいいんだよ。たとえ裕福じゃなくても。こんな生活がいつまでも続けばいいと、心の底から願うんだ。
「さて、仕事仕事っと。」
今日は早めに終わらせて家に帰ろう。
今日は、彼女と僕が初めて出会った日だから。花でも摘んで帰ろうか。高価なプレゼントなんて買えないけど、僕らにはこれで十分だ。
花を渡した時の彼女の笑顔を思い描きながら、僕は一歩を踏み出した。
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