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三本足の生物
石造りの鳥居の向こうには、薄暗い参道が続いていた。背の高い木々が鬱蒼と生い茂り、地面に濃い影を落としている。
立石あやめは被っていた帽子をとった。汗がこめかみを伝っていく。
鳥居をくぐり、参道を進む。幾重にも茂った葉が太陽を遮ってくれるので、参道は思いのほか涼しかった。頭上からは蝉時雨が降り注ぐ。参道の両脇には規則正しく灯篭が並んでいる。木々の根は地上に姿を露わにし、複雑に絡まりあっていた。
参道の突き当りを左に曲がると、目の前にぽっかりと明るい穴が現れたように視界が開けた。太陽の眩しさに思わず目を細める。前方には茅葺屋根の随神門が見える。その手前にある手水舎に立ち寄り、手と口を清める。
平日の昼間だからか、参拝客の姿は見えない。蝉の鳴き声とあやめが玉砂利を踏みしめる音だけが辺りに響いている。
拝殿へ進む。賽銭箱に小銭を投げ入れ、手を合わせる。願い事はいつも同じだった。
――妊娠できますように。
三十六歳のあやめは不妊治療を始めて六年目になる。月に一度はあちこちの神社で子宝祈願をしていた。
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