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帰国③★
健司と瀬戸に誘われて、近所のカフェに向かって歩いている最中。隣のバカが狂ったボリュームで言った。
「昨日は盛り上がっただろ!な!」
デリカシーの無いその発言に、俺は溜め息を吐いた。
「声デカ過ぎ、」
「悪ィ!でも、そうだろ?」
「そんなんじゃねーよ、」
そりゃあ、そのつもりだった。だけど、彼女の今の姿を見て、全くその気じゃない自分がいる。
彼女の事が好きだ。今朝の食事だって、変わらない彼女の味だった。話し方も、仕草も、何も変わらない。だけど見た目が違い過ぎる。恋愛に見た目は関係ないとか言う奴が居るけど、関係あるよ。大アリだ。
「…なんかノらなかった、昨日は」
気付けば、らしく無くそんな事を呟いていた。笑われるかと思って「今の忘れろ」って付け足したけど、意外にも健司は真面目に尋ねた。
「…視覚的な問題?」
凛が、俺の為に綺麗になろうとしたっていう事は、見て分かった。だって、以前の彼女だったら、お洒落になんて無頓着で。髪だって自分で切っていたくらいだ。
そんな彼女が化粧をし始めるなんて一大事。増してや、あんな丈の短いスカートを履くなんて。
「…そうだな、主に」
俺がそう答えると、健司は「俺は可愛くなったと思うけどな」と呟いて、続けた。
「風呂ですれば良いだろ、脱ぎゃ全部一緒だし」
「下品だな、お前…それに、俺たち風呂は別だから」
「風呂上がりはスッピンだろ?」
「それが、風呂上がりも化粧して出て来てさ…」
「ふーん、」
「もうこの話は終わり、」って話題を変えようとすると、健司が目を爛々と輝かせた。何か名案が浮かんだらしい。
「慶、慶!」
「…何だよ、うるせーな」
「寝てる時だよ、寝てる時!」
「はあ?」
「寝てる時に化粧してる奴なんか居ねーよ、な!」
「…寝込みを襲えってか?」
「そんなことしてまでしたくねーよ、」と健司を黙らせて、話題を変えた。
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