2598人が本棚に入れています
本棚に追加
/155ページ
エピローグ
アメリカに来て、6年目を迎えた。
慶と会うのは、多くても年2回程。
纏めて休みが取れなくて、なかなか日本に帰る時間がない。慶は慶で忙しいみたいで、私達が顔を合わせる手段はテレビ電話がほとんどだった。
朝起きて電話をかけたら、だいたい向こうは夕食の時間。私は朝食、向こうは夕食。画面に向かって食べていたら、一緒に食べているような気分になれた。
その日も、いつものように起きて、いつものようにコールした。
「慶、今大丈夫?」
すると、少し疲れたような声が返事した。
「うん、大丈夫」
2秒後、相変わらずの端正な顔立ちが、スマホの画面に映し出された。
「おはよう、凛」
「お疲れ様、慶」
チグハグな挨拶。これももう6年経ったら慣れっこだった。
「今日のご飯は?」
「油そば」
「また?」
「流行ってんのかな。コンビニのカップ麺のところ、油そばばっか並んでんだけど」
画面から姿を消したイケメンは、油そばの派手なカップを持って再登場した。フタとカップの隙間から、白い湯気が上がっている。
「凛は?何食ってんの?」
「ハムサンドと、コーヒー。あとヨーグルト」
「美味そう、俺も食いたい」
画面越しに見えた、目尻の皺。
会いたい。
いま、無性に、慶に会いたい。
「…次会えるの、多分年末だよね、」
「なに、寂しいの?」
「そ、そういう訳じゃないけど」
「珍しい。凛も寂しいとか思うんだ」
声を立てて笑われた。
慶は、寂しくないのかな。
最初のコメントを投稿しよう!