エピローグ

1/4
2598人が本棚に入れています
本棚に追加
/155ページ

エピローグ

アメリカに来て、6年目を迎えた。 慶と会うのは、多くても年2回程。 纏めて休みが取れなくて、なかなか日本に帰る時間がない。慶は慶で忙しいみたいで、私達が顔を合わせる手段はテレビ電話がほとんどだった。 朝起きて電話をかけたら、だいたい向こうは夕食の時間。私は朝食、向こうは夕食。画面に向かって食べていたら、一緒に食べているような気分になれた。 その日も、いつものように起きて、いつものようにコールした。 「慶、今大丈夫?」 すると、少し疲れたような声が返事した。 「うん、大丈夫」 2秒後、相変わらずの端正な顔立ちが、スマホの画面に映し出された。 「おはよう、凛」 「お疲れ様、慶」 チグハグな挨拶。これももう6年経ったら慣れっこだった。 「今日のご飯は?」 「油そば」 「また?」 「流行ってんのかな。コンビニのカップ麺のところ、油そばばっか並んでんだけど」 画面から姿を消したイケメンは、油そばの派手なカップを持って再登場した。フタとカップの隙間から、白い湯気が上がっている。 「凛は?何食ってんの?」 「ハムサンドと、コーヒー。あとヨーグルト」 「美味そう、俺も食いたい」 画面越しに見えた、目尻の皺。 会いたい。 いま、無性に、慶に会いたい。 「…次会えるの、多分年末だよね、」 「なに、寂しいの?」 「そ、そういう訳じゃないけど」 「珍しい。凛も寂しいとか思うんだ」 声を立てて笑われた。 慶は、寂しくないのかな。
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!