2597人が本棚に入れています
本棚に追加
/155ページ
仕事は、あまり捗らなかった。
このモードになったら、集中力がなくなってしまう。
慶と出会う前の私は、人と関わることを極端に避けていて。友達なんて要らないし、増してや彼氏なんて一生出来ないと思っていたのに。
気がつけば慶のことを考えていて、独りの部屋に帰ると寂しさが込み上げてしまう。
自分で「こうする」って決めたのに。
慶だって夢のために頑張ってるんだから、応援しなくちゃいけないのに。
「会いたいから、今すぐ来て」って言いたい。いつも喉のそこまで言葉が来ていて、今にも出そうになっていた。
そんな事、言える距離じゃないのに。
仕事は順調だし、友達もたくさん出来た。でも「楽しい」って思えば思うほど、「何か足りない」という想いが膨らんでいった。
夜。
仕事を終えて、帰路に着いた。
今日の夕食は何にしよう?
そう言えば、鶏もも肉があった気がする。
そうだ、唐揚げにしよう。
ーーー唐揚げ、慶が好きだったなあ。
いつも、テーブルの向かい側で、子どもみたいに口いっぱいに入れて頬張って。「美味しい!」って、目尻に皺を寄せて褒めてくれたっけ。
ああ、慶に会いたい。
油断したら、涙が溢れそうだった。
慌てて、空を仰ぐ。と、
ーーー凛!
聞き馴染みのある、甘くて優しい声。
まさか、と思って振り返ると、そこに彼が立っていた。
最初のコメントを投稿しよう!