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俺は玄関に戻って、彼女の背に触れた。
やっぱり、震えている。余程、怖かったらしい。
「凛、」
呼ぶと、涙が止まらない潤んだ瞳で、俺を見る。
「手、握ってもいい?」
ゆっくりと頷いてくれたので、そっと手を取る。俺の手にさえ、怯えている彼女。
「大丈夫、大丈夫だから」
彼女が慣れて来たのを見計らって、抱き締めても良いか確認を取った。また頷いてくれたので、そっと抱き寄せる。ふわりと、石鹸の香りがした。
「凛、ごめんな。側に居てやらなくて」
彼女は首を横に振る。
「私も、ごめんなさい…、慶の、言う通りだった…」
「もう大丈夫だから…な?」
まだ震えの止まらない彼女を、強く抱き締めた。
ここ数日、俺は家に帰って居なかった。
というのも、数週間前、凛と喧嘩した日の昼のこと。奴らを避けて1人で飯を食ってた時に、瀬戸が俺のところにやって来て、こう言ったのだ。
「凛、かなり怒ってるから、そっとしておいてあげて」
俺に会いたくも無いほど怒っていると言うので、ショックを受けながらも、同じ学部の友達のところに泊めてもらう事にした。
それから暫く、彼女が凛の様子を逐一 教えてくれて居たが、一向に機嫌が直る様子もないので、距離を置いて居た。
その間に、こんな事になるなんて。
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