2607人が本棚に入れています
本棚に追加
玄関まで迎えに出ると、中学校から腐れ縁の男が立っていた。
「ホラ、やっぱり居んじゃん!待たせんじゃねーよ!」
コイツに住所を教えたのは間違いだった、と後悔した。
中原 健司。中学、高校だけでは飽き足らず、学部は違えど大学まで同じ。自称イケメンで、高校時代は西澤 慶一郎と中原 健司で勝手に『NKコンビ』とやらを結成された。コイツ曰く、高校で一番モテたのはNKコンビらしい。
面白いし、良い奴なので仲良くはやっている。だけどコイツは致命的な事に空気が読めない。
そう、さっきみたいに。
「新居祝いしよーぜ!色々買ってきたぞー!俺のオススメはスーパーで見つけた、このスモークサーモ…あれ?」
1人で陽気にお土産の紹介をしている最中に、迎え入れた俺の後ろに立っている彼女に気付き、邪魔者はやっと「はっ」と全てを察した。
「す、スマン!最中だったか!」
「マジで、死ね、お前。帰れ」
俺がイライラしながら低い声で言ったが、彼女が前に出た。
「そんな言い方しなくて良いじゃん、せっかく来てくれたんだから。まだ片付いてないけど、どうぞ?」
信じられなくて、彼女を見た。だって俺たちはさっきまさに行為を始めようとしていたところで。さっさとこの邪魔者を追い返して、続きに勤しもうと思っていたのに。
滾った俺の気持ちは何処へやれば良いんだ?
空気の読めない邪魔者は、「ありがとう!じゃあお邪魔しまーす!」と靴を脱ぎ捨て、図々しくも廊下を進む。
どうしても納得いかなくて、その後ろを付いて歩く彼女の手首を掴んだ。
「おい、凛…、」
「…なに?」
「なにって…何で入れたんだよ?」
「だって、仲の良い友達なんでしょ?だったら、私も仲良くなりたいと思って」
彼女には、仲の良い友達が居ない。それは家庭環境が原因で。
俺と出会ってからは人のことを大切に出来るようになったから、そう思うのは良い傾向なんだけど。
「…分かった、」
真っ直ぐに目を見てそんなことを言われたら、納得したフリをするしか無かった。
最初のコメントを投稿しよう!