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「…手ェ出して」
そう言われたので、右の手のひらを差し出す。すると気に入らない、といった顔をされた。
「反対、」
「?」
不思議に思って、今度は反対の手のひらを出す。
すると彼はその手を裏返して、薬指に指輪をはめた。何の飾りもない、シンプルなシルバーリング。
それを見た瑠璃とケインくんが、「ひゃー!」みたいな冷やかしの声を出す。総二さんとお母さんは、クスクス笑いながら温かい目でこちらを見ていた。
「男避け、」
そう言って目を逸らすから、人目も憚らずに抱き着きそうになった。愛しくて仕方ない。
「い、いつ買ったの、」
「…いつでも良いだろ、」
「高くなかった?」
「…バイト代。こういう時の為に貯めてたから」
「わ、私よりも慶に女避けが要るでしょ、」
「…っせーな、ペアだよ。俺もするから」
そんなに照れるなら、しなきゃ良いのに、なんて。面白くて、思わず笑ってしまった。
「2年なんてすぐだよ。毎日連絡するね、」
「…おう、じゃあな」
そう言って、わしゃわしゃと頭を撫でられた。
こんなところに指輪なんてした事が無いから、薬指がこそばゆい。
みんなに背中を押されて、私はアメリカに出発した。
【つづく】
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