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一瞬、誰だか分からなかった。
胸までの茶色いゆる巻きの髪、膝上丈の黄色の派手なワンピース。眉毛は細く整えられ、目の上には茶色のアイシャドウ、長い睫毛にはマスカラが丁寧に塗られていた。頬は薄いピンクに色付き、唇はグロスでテカテカと光っている。
「慶!お母さん、総二さん!」
そう言って駆け寄って来てくれなかったら、俺はその子を凛だと判別する事が出来なかったと思う。
抱き着いて来た彼女からは、ふわりと化粧品と香水の甘い香りがした。
「凛子ちゃん、おかえり。綺麗になったね」
彼女が俺から離れると、親父がそう言って微笑った。艶子さんは何だか涙ぐんでいる。
凛に久しぶりに会ったら、人目を憚らず思いっきり抱き締めようと思っていた。キスするのを我慢できるだろうか、なんて事を考えたりもして。
だけど、ハタチの彼女は、俺が待っていた凛とはかけ離れていた。中身は正真正銘、俺の大好きな凛なんだろうけど、正直 戸惑ってしまって。抱き着かれても、抱き締め返す事が出来なかった。
確かに、綺麗になったんだと思う。だけど違う。俺の凛じゃない。
「凛ちゃん、みんなで久しぶりに夕食に行かない?」
艶子さんが嬉しそうに提案すると、親父が止めた。
「…2人も久しぶりの再会なんだから、邪魔しちゃいけないよ」
「そっか」とすんなり納得する義母。だけど俺は、食い気味に言った。
「いや、良いよ。行こう。久しぶりに集まったんだし…」
親父が眉根を寄せるのが、気配で分かった。
今2人きりにされても、どうしたら良いのか分からない。話したいことはたくさんあったし、触れたくて触れたくて仕方なかったはずなのに。
「…良いのか?」
「ああ、そうしよう」
凛の顔が見れない。俺が身勝手なのは分かってるけど、でも心の整理が付かなかった。
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