帰国①

2/3
2597人が本棚に入れています
本棚に追加
/155ページ
一瞬、誰だか分からなかった。 胸までの茶色いゆる巻きの髪、膝上丈の黄色の派手なワンピース。眉毛は細く整えられ、目の上には茶色のアイシャドウ、長い睫毛にはマスカラが丁寧に塗られていた。頬は薄いピンクに色付き、唇はグロスでテカテカと光っている。 「慶!お母さん、総二さん!」 そう言って駆け寄って来てくれなかったら、俺はその子を凛だと判別する事が出来なかったと思う。 抱き着いて来た彼女からは、ふわりと化粧品と香水の甘い香りがした。 「凛子ちゃん、おかえり。綺麗になったね」 彼女が俺から離れると、親父がそう言って微笑った。艶子さんは何だか涙ぐんでいる。 凛に久しぶりに会ったら、人目を憚らず思いっきり抱き締めようと思っていた。キスするのを我慢できるだろうか、なんて事を考えたりもして。 だけど、ハタチの彼女は、俺が待っていた凛とはかけ離れていた。中身は正真正銘、俺の大好きな凛なんだろうけど、正直 戸惑ってしまって。抱き着かれても、抱き締め返す事が出来なかった。 確かに、綺麗になったんだと思う。だけど違う。俺の凛じゃない。 「凛ちゃん、みんなで久しぶりに夕食に行かない?」 艶子さんが嬉しそうに提案すると、親父が止めた。 「…2人も久しぶりの再会なんだから、邪魔しちゃいけないよ」 「そっか」とすんなり納得する義母。だけど俺は、食い気味に言った。 「いや、良いよ。行こう。久しぶりに集まったんだし…」 親父が眉根を寄せるのが、気配で分かった。 今2人きりにされても、どうしたら良いのか分からない。話したいことはたくさんあったし、触れたくて触れたくて仕方なかったはずなのに。 「…良いのか?」 「ああ、そうしよう」 凛の顔が見れない。俺が身勝手なのは分かってるけど、でも心の整理が付かなかった。
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!