帰国③★

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健司にあんな事を言ったけど。その日の夜は、寝静まった彼女の部屋に、意識が飛んでいた。全然寝付くことなんて出来なくて、2枚のドア越しに聞こえる物音に、変態みたいに聞き耳を立てて。 「あー、クソ…、」 少しだけ、彼女の寝顔を眺める事にした。時刻は明け方の4時。 丸2年間、ひとつ屋根の下で彼女と過ごしているけれど、寝室に忍び込むなんて初めてだった。彼女の留学中は、掃除のために何度かお邪魔したけど、ソレとコレは話が別で。寝込みを襲うなんて、俺のポリシーに反する。だって、そんなことされたら、今後信用して一緒に暮らすなんて出来ないし。人のスマホを覗いていけないのと一緒の理屈だと思う。 ドキドキしながら、そっとドアを開けた。 眠っている、素肌の彼女。 長い睫毛、シルクのようなキメ細かい肌。薄いピンクの唇は薄く開かれ、整った寝息を立てている。近づくと、仄かに漂う石鹸の香り。 俺の凛だ、と思った。 あどけないその頬に、いけないと思いながらも唇を落とす。伏せられた瞼や、額にもそうした。愛しさが込み上げる。 堪らなくなって、唇にもキスを落とした。触れるだけじゃ足りなくて、舌も忍び込ませる。 そこで彼女はやっと目を醒ました。 「…ン、慶…?」 驚いたように名前を呼ばれたけど、御構い無しにその舌を攫う。2年ぶりのキスは、それはそれは甘美で。覆い被さって、暫くそれに酔いしれた。抵抗されたら止めようと思ったけど、彼女も同じ気持ちのようで、俺の首に縋り付いている。 どのくらいの時間、そうしていたのか分からない。とにかく夢中で、貪り合うみたいにキスをした。
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