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「…何?どした?」
「あのね、」
「うん、」
「…実は、通訳に、なりたいと思ってて…」
拍子抜けした。
良いじゃん、通訳。俺も、英語が活かせる仕事が良いと思っていたところだ。
「狭き門だし、普通に就職しようかと思ったけど、やっぱり興味が湧かなくて…」
「…へえ、通訳ってどうやってなるの?」
「エージェントに派遣登録するの。で、仕事が見つかったら、派遣、みたいな。実績を積めば、個人的に仕事が振られる事もあるんだけど…」
「ふーん、良いんじゃない?」
だけど彼女の表情は暗いまま。次の台詞を黙って待っていると、思い沈黙の後にようやく口を開いた。
「今朝、教授に相談したんだけど、そしたら教授の知り合いで若い女性の通訳を探してるクライアントが居るみたいで、良かったら話を聞いてみないかって…」
「え、凄いな、良かったな!」
トントン拍子とはこの事だ。凛のゼミの先生は凄い人だと聞いたことがあったけど、そんなコネクションまであるなんて。今度お礼を言いに行きたい、くらいの気持ちになった。
だけどその話では、彼女の表情の説明がつかない。
「で、何でそんなに暗い訳?良い話じゃん、」
「そうなんだけど…」
俯いていた彼女が、突然俺の目を見た。意を決したように、口を開く。
「決まったら、ほぼ海外で暮らす事になる…と思う」
突然、血の気が引いた気がした。俺はてっきり、英語圏の外国人が日本に来て、その通訳をするんだと思っていた。まさか、逆だったなんて。
「正直悩んでるけど、こんなチャンスは二度とないって思ってる」
言い切って、彼女はスッキリしたようにフゥと溜め息を吐いた。
だけど、俺の頭は混乱していた。留学の2年をやっとの思いで耐え切ったのに、また離れ離れ?しかも暮らすって、一体何年間?いつまで待ってれば良いんだ?
「…暮らす、って、」
「専属契約になるから、契約が切れるまで…」
「…何年…?」
「…それは話を聞いてみないと分からないけど、長期とは聞いてる…」
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