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彼女は俺と結婚して、一緒に暮らすんだと思ってた。開業医になれば、いずれ生まれる子どもも引っくるめて彼女と長い時間が過ごせる。それを目標に3年間勉強して来たつもりだ。だけどそれは勝手な妄想だった。彼女は俺の手の届かないところへ行こうとしている。
「…まず、一番に話してくれてありがとう。それは嬉しいんだけどさ、」
「うん…、」
「このまま特に問題無ければ、凛はその仕事がやりたい…っていう認識で良い?」
ノー、と答えて欲しかった。だけど彼女は戸惑いながら、ゆっくりと頷いた。
内臓が一気に重くなる。お腹を空かせていたはずなのに、大好きな彼女が作ってくれた最高の夕食のはずなのに、食欲なんて綺麗さっぱり無くなっていた。
彼女との幸せな未来を考えていたのは、どうやら俺だけらしい。
「…俺とのことは一切考えてねーのかよ、」
気が付けば、俯いて呟いていた。聞こえてたのか聞こえてなかったのか分からないけど、彼女の視線を感じる。
俺ももう、ヤケになっていた。彼女の目を見て、言う。
「俺は、凛と結婚したいと思ってた、」
「!」
目を見開く彼女。そりゃあそうだ。21歳のガキが吐く台詞じゃない。
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