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雰囲気の良いレストランで、もしくは夜景の綺麗な場所で、ダイヤの指輪なんか差し出して。ベタかもしれないけど、少なくともこんなタイミングで言うつもりなんて毛頭無かった。彼女や家族を養っていけるだけの男になったら、伝えようと思っていたのに。完全にフライングだ。
「俺は常に、凛と過ごすことを頭に入れて、進路のこと考えてる。だけどそれは俺だけ?凛の想像する未来に、俺は必要無い?」
「…そんな事…!」
「あるだろ?俺が今から取れるのは日本の医師免許だけだ。海外に住むなんて選択肢は無い」
彼女の目は潤み始めて、グラグラと揺れていた。だけど、怒りなのか哀しみなのか、俺の感情もグチャグチャで。
「行きたいなら行けよ。俺に凛を止める権利は無いからな。だけど、行くならもう一緒にいる意味は無いと思う」
捨て台詞みたいにそう言って、立ち上がった。
「…ご馳走さま、」
半分しか食べていない夕食をテーブルに残して、自室に戻った。そのままそこに座り込む。頭を抱えていると、バタバタと足音がして、玄関ドアの音がした。
慌ててリビングに戻ると、テーブルの上はそのままで、椅子も出っ放しで。彼女は居なくなっていた。
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