【企画】小児科のせんせい ★

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【企画】小児科のせんせい ★

「西澤先生って、彼女…」 「居ます。結婚するつもりの彼女が、」 うんざりする程よく投げ掛けられる質問に、食い気味に強い口調で答えた。 研修医2年目、凛と遠距離6年目。 付き合いで飲みに行った場に女性が居たら、100%「そういう目」で見られる。いい加減、迷惑だ。 薬指に指輪してんだろ、女なら気付けよ。 心の中ではいつも、そんな台詞を吐き捨てている。 「…俺、先に帰ります、」 そうして大抵、先にお暇させてもらうから、勤めている病院内で俺は「謎が多い存在」になっているらしい。 よく、変な噂を耳にしていた。 見た目が良いくせに浮ついた噂が無いから、 無能なんじゃないかとか、実は家に女の子を飼ってるとか、 若い看護師に興味が無いから、 熟女好きだとか、そもそも女に興味がないんじゃないかとか。 よく飽きもせずそんな噂流すよな、と内心呆れていて。早く研修医生活を終えて開業したいと心の底から思っていた。 正直、凛がアメリカ行きを決めた時は、反対したい気持ちでいっぱいだった。 だけど、男たるもの女々しく「行かないで」なんて言えないし、彼女の夢を応援するのが「良い男」だとも思ったから、渋々送り出したわけだけど。 半年も経つ頃には、送り出した事を完全に後悔していた。 凛が帰ってくるのは、盆の墓参りと新年の挨拶くらい。相変わらずサッパリとしていて、恋愛よりも仕事や勉強が優先の彼女。俺のことを気遣ってくれてるのは伝わるけど、優先順位的にはかなり下だった。 国際電話をかけても、高い通話料を払ってまでかけて来なくていいと言われて、最終的には無料のテレビ電話で落ち着いた。 俺的には毎日顔を見て、毎日キスして、毎日抱きたいレベルなんだけど。彼女からすれば、生存確認だけ取れていればいいのか、「おはよう」と「おやすみ」の連絡が出来れば満足のようだった。 彼女がアメリカに住んでいる最中、勉強はもちろんだけど、将来2人で暮らす準備を着々と進めていた。 俺がゆくゆくは開業医になりたい話を両親にしたら、何故か両親の方が乗り気で。親父と艶子さんは早々にマンションを買ったので、実家は俺のものになった。 そこを改装して、今の「西澤小児科」が出来たという訳だ。
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