2592人が本棚に入れています
本棚に追加
/155ページ
波乱②
荷物を取りに家に帰った。ただ、それだけのつもりだったのに。
玄関のドアを開けると、最愛の彼女が小さくなって座り込んでいた。
「凛?」
俺に気付くと、ボロボロと涙を流しながら、何度も「ごめんなさい」と呟く彼女。微かに震えている。
「どうした…?」
背中をさすってやろうと手を差し出すと、彼女は一際ビクリと震える。
明らかに様子がおかしいと思っていたら、彼女の肩越しに、腐れ縁の男が見えた。ばつが悪そうなその顔と、震える彼女を見比べて、全てを察した。
今まで燻っていた怒りが、一気に沸点を通り越す。
「てめえ!」
ずかずかと詰め寄って、胸ぐらを掴む。
「凛に、何しやがった!?」
自分が、こんなに大きな声が出るなんて知らなかった。そんなに腹が立つことも今まで無かったので、こんなに声を張った事がない。
俺が怒り狂っているのに、目の前の男は「そんなに怒るなよ」なんて呑気な事を言っている。
我慢の限界で、俺は右手の拳に力を込めた。
ーーーダメ!
背後で彼女が言った。
「殴っちゃダメ、私が悪いから…慶の言う事を聞かなかった、私が悪いから…!」
怒りは全然収まらなかったけど、彼女に免じて手を離す。同じ空間に、もう一緒に居たく無かった。
「帰れよ。で、二度と来るな」
そう、搾り出す。健司は黙って出て行った。
最初のコメントを投稿しよう!