就職活動①

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就職活動①

凛は留学から帰ってくると、今度は進路のことで忙しそうだった。3月から本格的に始まるとは言うものの、ほとんどの企業が早めに説明会や面接を始めるらしく、新学期は進路相談室に足繁く通っているようだった。 俺は医学部で6年制だから、あと3年も残っている。日々 勉強に追われてはいるが、バイトをしたり遊んだりするくらいの余裕はあった。 ある日、店長から夜勤が足りないので臨時で入ってくれと言われた。次の日は午前唯一の2限が休講だったから、快く引き受けて。明け方帰って来ると、ダイニングに置いてある大量の企業パンフレットが目に入った。 金融、メーカー、商社…ジャンルはバラバラ。 「迷走してるな…」 と、思わず呟いていた。せっかく留学したんだから、英語が生かせる仕事をすれば良いのに。 シャワーを浴びて、仮眠をするために部屋に戻ろうとすると、凛の部屋のドアが開いた。 「おはよう、」 「ん、おはよ…」 目をこすりながら、パステルピンクのパジャマを着た彼女が現れた。前みたいに、化粧バッチリで部屋から出て来ることは無くなった。 アクビをする彼女が可愛くて、思わずそばに寄って抱き締めた。すると、寝ぼけながら俺の頬に唇を寄せる彼女。 「こんな時間まで働いてたの…?」 「うん、30分くらい前に帰ってきた。凛は学校?早いな、」 洗面所に向かう彼女に着いて歩く。と、彼女は歯磨きを始めた。 「ゼミの教授に就職の相談に行こうと思ってて。本当は2限からなんだけど」 「忙しそうだな、」 「2年も休んでるから、勝手が分かんない。慶は学校は?」 「1回寝て、午後から」 「そっかあ、じゃあ1人で行かなきゃ」 そう言ってうがいをする彼女。拗ねたみたいな言い方が、何だか可愛かった。 そこから昼まで寝て、リビングに行くと、ラップがかかった昼食が用意されていた。「バイトお疲れ様」というメッセージが書かれた付箋付き。 本当に、彼女はすぐに俺の心を鷲掴みにする。 鼻歌混じりに、愛情の込もった昼ご飯を口に運んだ。
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