新生活②

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新生活②

「…いつ帰るんだよ、てめえは!」 夕食のお味噌汁を啜るケインくんを見て、慶が噛み付いた。当の本人は、「この味噌汁、やっぱ母ちゃんのより美味ェ!」なんて上機嫌に感想を述べている。 引っ越し当日に泊まってから、ケインくんは事あるごとに遊びに来ていた。たいてい夕方以降に遊びに来て、泊まって帰って。その日にまた来る事もあって。ちなみにケインくんのベッドは、リビングのソファ。 私は全然構わないんだけど、慶は明らかに嫌がっているようだった。 それもそのはず。ケインくんはいつも絶妙なタイミングでやって来る。 私からすれば、内心「助かった!」と思っていて。その行為は嫌じゃないんだけど、やっぱり恥ずかしいから。慶がしたいなら勿論するけど、しなくて良いなら正直その方がいい。 「お前さ、毎日当然のように飯食ってるけど、それにも金が掛かってんだぞ?迷惑だとか思わねーのか?」 私たちはお互い十分過ぎるくらい仕送りを貰っていたので、生活費のことなんてこれっぽっちも気にしていない。多分、正当な理由で追い出そうとしているんだろう。 でも、ケインくんの方が上手だった。 「それ、俺も思ってたんだよ!だからコレ持ってきた!」 大きなリュックから取り出したのは、昔ながらのブタの貯金箱。テーブルに置くのと同時に、チャリンと音がした。 「1食500円、ここに入れていく!それで文句ねえだろ?」 ニッと微笑って歯を見せるケインくん。その歯には今まさに食べているお好み焼きの青海苔が、2枚ほど貼り付いていた。 「良いよ、そんなの。気にしないで」 私がそう言ったけど、彼はブンブンと首を横に振った。この人はいちいちリアクションが大きい。 「俺だって一応これでも気は遣ってるんだから!な、慶!」 その一言に、私は思わず吹き出した。無邪気というか、天然というか、小学生をそのままサイズだけ大きくしたような人。顔はそこそこだし身長も高いし、一般的にはイケメンなんだろうけど、性格で絶対に損をしている。だけど、面白すぎて、毎日会っていても全然飽きない。 「良いじゃん、慶。明日は入学式だし、ここからの方が学校近いし。ね?3人で行こう?」 そう言うと、彼は明らかに納得していない顔で「分かったよ」と呟いた。
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