はらはらこぼれる空の真下で

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はらはらこぼれる空の真下で

「……これで、梅の花を撮ろうと思ったの……」 はらはらと雪の舞う空の下で、君はカメラを握りしめ、消え入りそうな声でそう言った。 「勝手に持ち出したこと、怒ってる?」 「怒ってないよ」 「だってママのカメラだもん。ホントは私が触っていいわけ──」 「いいんだよ」 泣き出しそうな君の言葉を、なだめるように遮る。 「いいんだよ。きっとママも喜んでる。ママの好きな花を、よく知ってるね」 「だって……小さい頃に話してくれたから」 涙の雫が、雪に溶け込むように──。 きっと僕の知らないところで、ママが君に語った寝物語だったのだろう。 梅の花言葉は「不屈の精神」。 彼女は、最後まで諦めない不屈のカメラマンだった。 「撮った写真を、ママに見せよう」 「……うん……」 カメラについた傷を悲しげに撫でる君の指を、僕は見逃さなかった。 もうすぐ命日。 雪を含んだ風に吹かれて、彼女の好きな花が枝からひとつ散りこぼれた。 【end】
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