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「このカメラは、覗くと違う世界が見える。シャッターを押すと次は風景が切り替わる。機能は多分それだけ。だから私はいつもそうして、町を見ている」
カメラを下げて、視線を戻す。
「『いつも』って、どれだけここにいるんだ」
「大体、1か月半ぐらい。お腹は空かないし眠気もないから、ずっとこうしている。今まで人が現れたのは初めてだったから、幻覚かもしれないと思って無視をしていたけど、本当だったからよかった」
続けて、
「ずっと『撮影者』をしていたけど、どうしよう。これからはカメラが足りない」
「それより、ここから出るための糸口を」
「探さない。もう、無理。最初の一週間、ずっと歩き続けた。だけど枯れ葉の世界しかなかった。だから、無理。ここに来たからには、『撮影者』になるしかない」
「あなたも、歩いてみて。その目には雪原が見えているんでしょう。もしかしたら違うこともあるかもしれない」
「……いや、いい。大丈夫だ」
「だったらカメラを返して。私は町を見たい」
渡す。
手に取られると、また両手で持ち上げて、彼女は覗く。
「……え」
その声に遅れて。
「見えない――なんで、なんで。枯れ葉しか、」
「どうしたんだ」
「……見えない。シャッターを押しても、風景が、変わらない」
そういって、確認してほしいのか自分の元にカメラを再び渡す。
覗き込むと。
「見えるぞ。町はある」
今度は変わって、江戸時代の町みたいなのがあった。
言うと、少し強く、カメラを奪われる。彼女はまた覗くが、
「見えない、そんなもの見えない。なぜ――」
彼女は何度となく、そう放つ。「なぜ私の目には、映らないの」
言が口にされるとともに、地面にカメラを落とす。
次の瞬間。
彼女は、消失していた
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