1人が本棚に入れています
本棚に追加
「ごめんなさい。ボクのこえも、つたわらないんだ」
哀しそうな、寂しそうな顔をしたおとうさんに、しゅんとしながら答えれば、おとうさんは『伝わってるさ』ととても優しい顔をして笑う。
『お、そろそろ帰る時間みたいだな』
おとうさんがそう言ったのと殆ど同時に、ボクの大好きな人が立ち上がり、「そろそろ行きましょうか」とボクの頭を撫でる。
「おはなししなくていいの?」
おとうさんと、大好きな人を交互に見ながら言ったボクに『いいんだよ』とおとうさんは笑う。
『いつでも上から見てられるからな。心配すんな』
そう言って、ボクの頭をまたわしゃわしゃと撫でたおとうさんが、ボクの大好きな人の頭も、わしゃわしゃと撫でる。
その瞬間、ぶわ、っと強めに風が吹き、おとうさんの姿は見えなくなった。
ぽかん、とした顔をした君が、不思議そうな、顔をしながら自分の頭を抑える。
「どうしたの?」
そう問いかけたボクに、君はボクを見たあとに、また空を見て、今度は嬉しそうに笑う。
「父さんが、いた気がしたのですが、気のせいですかね」
ふふ、と笑いながらボクを見る君に、ボクのお腹のあたりはなんだかホカホカとしてくる。
君の心も、ボクみたいに少しでもホカホカになったら良い。
最初のコメントを投稿しよう!