幽世姫と朝霧君

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 そこは研究会とは名ばかりの、姫川莉乃が完全に私物化しているサークルハウスだった。建設現場などによくあるような小屋を少し大きくしたようなサークルハウスの裏手には、専用の釣り堀まで作られている。  そんな充実の設備を使用しているのは、しかして姫川莉乃ただ一人。彼女のフィッシング研究会に入会するには、姫川さんに認められて直接入会届を貰うほかないらしい。  それはつまり、無理という事だ。学生の間では〝裸足で月を目指す事と変わらない〟とまで言われている。  しかしそれも入会するには、と言う話だ。ちょっとお願い事をするくらいは誰にでもできる。はずだ。 「魚とか、分けてくれないかな……」  実の所、金欠なのである。母親が銀行へ行くのを面倒がって、もう二か月も仕送りをしてくれていないのだ。当然、アルバイトなんて面倒な事はしていない。  子猫をお腹のポケットにしまい、ドアをノックする。しばし待つ。……返事が無い。  もう一度、今度は少し強めに扉を叩く。しかしやはり返事が無い。留守だろうか?  踵を返して立ち去ろうとしたところに、何か大きなものが水中に飛び込むような音がした。直感する。音の発生源はサークルハウスの裏手にある釣り堀だ。  ドアノブに手をかけて回してみる。鍵は掛っていない。 「はぁ。最近、面倒事に恵まれてるなぁ……」             ☆  針の先に練り餌を付ける。大きくなり過ぎないように注意。     
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