4人が本棚に入れています
本棚に追加
そこは研究会とは名ばかりの、姫川莉乃が完全に私物化しているサークルハウスだった。建設現場などによくあるような小屋を少し大きくしたようなサークルハウスの裏手には、専用の釣り堀まで作られている。
そんな充実の設備を使用しているのは、しかして姫川莉乃ただ一人。彼女のフィッシング研究会に入会するには、姫川さんに認められて直接入会届を貰うほかないらしい。
それはつまり、無理という事だ。学生の間では〝裸足で月を目指す事と変わらない〟とまで言われている。
しかしそれも入会するには、と言う話だ。ちょっとお願い事をするくらいは誰にでもできる。はずだ。
「魚とか、分けてくれないかな……」
実の所、金欠なのである。母親が銀行へ行くのを面倒がって、もう二か月も仕送りをしてくれていないのだ。当然、アルバイトなんて面倒な事はしていない。
子猫をお腹のポケットにしまい、ドアをノックする。しばし待つ。……返事が無い。
もう一度、今度は少し強めに扉を叩く。しかしやはり返事が無い。留守だろうか?
踵を返して立ち去ろうとしたところに、何か大きなものが水中に飛び込むような音がした。直感する。音の発生源はサークルハウスの裏手にある釣り堀だ。
ドアノブに手をかけて回してみる。鍵は掛っていない。
「はぁ。最近、面倒事に恵まれてるなぁ……」
☆
針の先に練り餌を付ける。大きくなり過ぎないように注意。
最初のコメントを投稿しよう!