幽世姫と朝霧君

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 私は良くこれで失敗をする。『餌は大きい方が食いつきも良いよね』なんて思ったら大間違い。パクリと餌だけ食べられて、はいお終い。後には何も残らない。  餌の付いた針を釣り堀へ投げ入れ、糸を垂らしたままでひたすら待つ。  風のそよぐ音が聞こえる。遠くでは運動系サークルの掛け声。周りには誰も居ない。そばにいるのは、十年前に保健所に連れて行かれそうな所を保護した私の愛犬、マジョルだけ。身じろぎもせず、長い毛で隠れた瞳で、揺れる浮きをじっと見つめている。  私の為の、私だけの時間。気を張りっぱなしの生活の中で、唯一私が気を抜ける瞬間。  陽光を反射して輝く水面に揺れるカラフルな浮きを見ていると、なんだか他人とは思えなくなってくる。  餌を付けられ、投げ入れられ、喰いつかれて、沈められる。  そこを私は釣り上げる。浮きは宙を舞う。そして、哀れなおまけが付いてくる。  別にハンターを気取っている訳じゃない。なんとなくだが、この釣りという行為が私にとって実に相応しい気がするのだ。  ちょっぴり、親父くさいかな……なんて思ったりもするけど。  ふと脳裏に、あの食堂でかけられた言葉が蘇る。 「つまらなそう……。退屈そう……」  自分でも意識しないままに、言葉が口をついて出た。  確かにその通りだ。私はつまらない。退屈している。     
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