幽世姫と朝霧君

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 形あるものは望めば大抵の物は手に入る。故に興味が無い。  スポーツも勉強も、難しいものなど何もない。どんなミステリーも先が見える。  人付き合いにも興味は無い。いや、違う。誰も私になど興味は無い。  見ているのは外見。そして姫川財閥の四女という立場だけ。〝姫川莉乃〟に興味を持つ者は誰も居ない。  少し叩けば飛んでいく。軽く払えば離れていく。そんな人間ばかりだ。  あぁでも、あいつだけはちょっと違ったな。あの人型マリモだけは。  どれだけ睨んでも、嫌味を言っても、変わらずいつも声をかけてきた。  誰にでも向けるような普通の表情、普通の声で。いつも変わらず、いつも通り。  ご機嫌伺いではない。取り入ろうとする嫌らしい笑みでもない。  あり得ない事だけど、多分アイツは〝姫川財閥の四女〟ではなく〝姫川莉乃〟に話しかけていたのだ。 「つまらなそう、なんて言われたの、初めて、だったな……」  風の音かと思ったが、違った。またも意識せずに言葉が口から溢れ出ていた。  私の感情の機微に気がつく者など、マジョル以外には居ないと思っていたのに。  いや、気のせいだ。きっとそう。  突然、マジョルが小さく吠えた。     
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