幽世姫と朝霧君

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 美しい花にたかる虫は多い。その蜜が甘いのであれば、なおさらだ。実際に姫川さんに取り入ろうと周囲をうろつく者は少なくないが、誰一人としてお近づきになれたものは居ない。姫川さん自身が、近づく人間全てを払いのけてしまうのだ。  圧倒的な美貌、絶対的な権力、そして苛烈なその性格。ゆえに、ついたあだ名が―― 「今日も〝幽世姫〟は絶好調だ」  苦笑い気味に、健斗が言う。嘲笑の笑みではない。手が届かぬものへ対する諦めの笑みだ。  幽世。それは永久に変わらない神域。人の手が届かぬ境界の向こう側。絶対の禁足地。  だけど僕は、そんな風には思わない。 「ちょっと行ってくる」  腰を浮かす僕を見て、健斗がいやらしく歯を剥く。 「おっ、今日も御出勤か? 相変わらず気になった事だけには一直線だな。まぁ頑張んな」  薄情な声援を背中に聞きながら、まっすぐに姫川さんの元へと歩を進める。周囲から好奇の視線と「またあいつだよ」という怒りとも呆れとも、嘲りともつかない声が聞こえてくる。 「こんにちは、姫川さん」  ちらり、と蒼い瞳が鋭く僕を刺す。 「まったく、いつもいつも……。学習能力ってものが無いのかしら。何度お願いされても同席はしないし、許さないわよ」 「お願いじゃなくて、お誘いなんだけど」  弓を引き絞るように、蒼い瞳が細められる。 「余計にお断りよ。なんでこの私がアンタみたいな人型マリモに誘われないといけないのよ」     
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