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マリモって。マネキンみたいに気配が無い、と言われたことはあるが、マリモは流石に初めてだ。
「なんていうかさ。いつも一人で寂しそうだったから」
「寂しい? そんな感情、生まれてこの方一度も感じたことはないわね」
困ったように頭の後ろを掻く僕に向かって、姫川さんが今にも噛みつきそうな勢いで言い放つ。全方位に敵意を振りまくその様子は、まるで捨てられた犬みたいだった。
「じゃあ言い方を変えるけどさ、なんだか、とてもつまらなそうだ」
「……つ、つまらな、そう?」
火が消えるように、姫川さんの放つ怒気が萎んでいく。そしてそのまま俯き、考え込むように何事かを呟き続けている。これは今日も失敗だな。
「じゃあ、お誘いはまた今度にするよ。邪魔したね」
立ち去ろうとする僕の背中に、姫川さんから声がかかる。
「待って。私って、そんなに風に見える?」
大げさ過ぎるほどに肩を竦めて見せる。健斗の真似だ。
「見えるね。僕以上に退屈そうだ」
☆
女心と秋の空とはよく言うが、春の空だって結構気まぐれだ。
昼過ぎから表情を曇らせ始めた空は、夕刻前にはついに泣き出してしまった。
「さて、どうしようかな……」
雨に煙るアスファルトを眺めながら、一人呟く。
購買まで戻って傘を買おうか。いや、面倒だ。
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