幽世姫と朝霧君

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 子猫を拾ってから数日。健斗や田舎の母親などに話を聞いて、一つ解った事がある。子猫を育てるというのは、思いのほか手間が掛かるらしい。  春とはいえまだ寒い日も多い。かと思えば急激に気温が跳ね上がる事もある。人間でも体調を崩しやすいこの時期に、空調などという上等な設備の無いボロアパートに子猫を放置していくのは危険であるというのだ。  いくら近場とはいえ一日に何度も部屋に戻るのは流石に面倒過ぎるため、薄手のパーカーを着て、そのフードかお腹のポケットに子猫を入れて連れ歩いている。そのせいか、最近やけに女子に人気だ。モテているのは僕じゃないけれど。 「あ……。しまった。こいつのごはんを買い忘れてた」  家へ向かう帰り道、手の中で寝ぼけて僕の指を甘噛みする子猫を見て、不意に思い出した。パンも牛乳も今朝で品切れ。こいつに食べさせられるようなものが何もない。まさかカップ麺と言う訳にもいかないし。  コンビニに行くか……。いや、面倒だな。家から歩いて六分も掛るじゃないか。往復十二分。ダル過ぎる。  そんな事を考えながら歩いていると、とあるサークルハウスの前を通りかかった。 「フィッシング研究会、か」     
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