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「右を向いてみて?」
ユニは急に落ち着き払った声で言った。リリスは訳が分からず、ぽかんとする。
「え?」
「早く!」
「はっ、はい!」
怒鳴るように命じられ、思わず敬礼をしてリリスは右を向く。額に滲んだ汗も拭えず、直立したまま動けない。
少しの間、ユニはリリスを値踏みするよう見ていた。まるで植物や動物の品評会の審査員のようだ。
「次は、左だ。そのまま、回ってみせて。――そうだ、そこで止まれ!」
次々と命じられ、リリスはそれに従っていく。
軍隊の指揮官のようにユニはリリスを操った。その場で、リリスが一周すると、満足したのか命令は終わった。
「――さあ、そこに座って」
憑き物が落ちたかのように、ユニの声が穏やかなものに変わる。
「悪いね。こんなところに来てもらって。退屈じゃなかったかい?」
「いえ、そんなことは……」
先ほどの事に触れることなく、ユニは笑っている。その笑みに違和感を覚えながらも、リリスはソファに座った。
穏やかな空気に変わった。けれど、あの、人を支配するような声が耳から離れない。自然と体が硬直し、背筋が伸びる。
「そんなに委縮しないでくれ。――話している間中、私は君と早くこうして話したかったというのに、君が笑っていなかったら意味がない。ほら、良い子だから笑って」
汗を拭くこともなく、ユニは微笑んだ。額に輝く汗すらも魅力に変えてしまいそうな笑みだ。
どこか異質な匂いがする。
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