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「悪い子には、お仕置きが必要ですか? お利口な犬なら、お返事くらいできますよね?」
サタンよりも恐ろしい、聖女の怒りの表情に心臓が凍りついた。満面の笑みのはずだが、目が笑っていない。少女とは思えない威圧感に、脂汗が額から吹き出した。
そしてシドは、耐え切れない緊張からとうとう言葉を発してしまった。
「…………わん」
屈辱的な返事は、彼女への屈服を表現していた。変貌したリリスの様子に、シドは唖然とする。リリスはシドの手を払い、身を起こす。
急に近づいたリリスの顔に、シドは後ずさった。
「逃げることはないでしょう。仕方のない方ですね。――では、話してくださいますね。何故、あれほどまでに取り乱したのですか? よろしければ、話してください。わたしでよければ、聞きますよ。それでも嫌なら、無理にとは言いません」
最後はいつものように、気弱な声だった。まるで憑き物が落ちたようだ。
普段の少女に戻ったことに、シドは安堵する。
同時に委縮していた心が、じんわりと解けていった。
ベッドに小さく腰掛けるリリスがどこか面白くて、苛立った感情が薄れていく。シドはベッドに腰掛け、俯いた。
「俺の力はお前らのものとは違う。そのことには、うすうす気が付いてるだろ? その理由を教えてやるよ」
リリスの目を見ずにシドは話し出す。
「――俺は餓鬼の頃に、ここへ来たことがある」
リリスが息を飲んだ。けれど彼女は続いて言葉を発することはなかった。
口を挟まず最後まで聞く気なのだろう。こちらからすべて話すのを待っているのだ。
その気持ちを酌み取り、シドは幼い頃の記憶を思い出すように目を閉じた。
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