1章-相棒は狂犬な番犬?

1/8
前へ
/219ページ
次へ

1章-相棒は狂犬な番犬?

 18××年、イギリスのロンドン。  女王の住まうバッキンガム宮殿――の地下には、民衆にも知られていない大規模な施設がある。  都市に張り巡らされた地下水路の中心にある施設は、倫敦幻影隊(ファントム・ハンター)の本部として使用されていた。 「――わたしの相棒(バディ)ですか?」  幻影隊本部のさらに地下深くへ続く階段を、二人の男女が歩いている。  新人ファントム・ハンターである少女リリスは、澄み切った水色の双眸を不思議そうに瞬かせた。  16歳になったばかりの少女は、小柄な体に不釣り合いな革製の重厚なドレスを着ていた。ドレスの下には、クジラの骨と牛革で出来た頑丈なコルセットを付け、腰には太めのベルトを巻いている。  ベルトに下げるのは防毒面(ガスマスク)だ。  華奢な見た目に反して厳つい装備をした少女は首を傾げた。  鈍く揺れる革のドレスとは正反対な柔らかい亜麻色の髪が、軽やかに肩から滑り落ちる。 「新人は基本的にバディを組んで行動するように指導している。お前が入隊してから三か月、本当はもう少し早く組ませる予定だったのだがな。色々とごたついていて、やっと今日、本部に送られてきた」  リリスの隣を歩く男が言った。  黒地に赤と金で縁取られた隊服を堂々と着こなし歩く男の名はアルバート。二十代後半にして王立幻影隊の隊長を務める男だ。  鼻筋の通った横顔は凛々しく、眉根を寄せた顔ですら絵になる。  涼しげな目元と赤みがかった黒髪。清廉な隊に相応しい容姿を持つ男は、眉間に苛立ちのこもった深いしわを作っていた。
/219ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加