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あの日の温もりを取り戻したくて、母親の言いつけを守っていた。これ以上、自分の元から誰も離れて行かないように、自分を殺して生きてきた。
それなのに、今まで積み上げてきたものが、ガラガラと音を立てて崩れていく。崩壊しそうな心を繋ぎとめるように、シドの胸元にしがみ付いた。
「いい子でいることが、周囲の迷惑にならず、少しでも役に立つことが、わたしの望みなんです。そうしないといけない状況で、わたしは生きてきたんです」
シドを見上げ、リリスは訴えかける。だが、シドはそれを鼻先で笑い飛ばした。
「ばっかじゃねの。いくらてめぇが良い子ちゃんでいても、母親は迎えになんてこねぇよ」
「そう、ですよね。わたしなんて、いるだけで迷惑ですものね――」
「だからてめぇは馬鹿だって言ってんだよ!」
「ば、馬鹿馬鹿言わないでください!」
冷たいシドの態度に、リリスは涙をあふれさせた。ぼろぼろと泣き始めたリリスに、シドは「うっ」と、たじろいだ。
「泣くんじゃねぇ、面倒くせぇ」
急いでシドはリリスの目元を拭いた。
「そうじゃねぇっての……。俺が言いたいのは、お前の母親はお前を迎えに来る気なんてさらさならなかったってことだ」
薄々気が付いていたことを言われ、リリスは涙ぐむ。けれど、その涙もすぐにシドの指で乱暴に拭われた。
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