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「なんでお前の母親が、お前の事を修道院に預けたのかは知らねぇけど、お前が今いるのはここだろ? 修道院じゃない。俺の隣にいるんだ」  シドはリリスの頭に手を置いた。繊細なガラス細工に触るような手つきで頭を撫ぜられ、リリスは目を丸くする。驚いてシドを見上げようとした矢先、頭を引き寄せられた。 「もう、母親を待つのはやめろよ。その代り、母親の代わりにずっと、俺が一緒にいてやる。だから、もう泣くな」  リリスを抱きしめたシドは、幼子を慰めるように頭を軽く叩いた。 (温かい――)  抱きしめられた体以上に、心の中が温かかった。早くなる鼓動が、体中に熱をはこんでいく。  胸が柔らかな温かさで満たされていく。そのぬくもりを全身で感じたくて、リリスはシドの背中に腕を回した。 「シド……。あ、ありがとう、ございます。嬉しいです」  止まっていた涙が頬を流れた。  リリスはぐすんと鼻をすする。嗚咽交じりの声にシドが、リリスの涙に気が付いた。 「なっ、なんでまた泣くんだよ! 一々泣くな! 噛みつくぞ!」  慌ててリリスの顔をごしごし拭きながら、シドは怒鳴るように言った。  焦っているのか、本当に噛みついてきそうなシドが怖い。シドの牙を見ながら、リリスは涙を拭った。 「か、噛みつかれるのはもう嫌です……。でも、涙が止まらないんですもん。だから、痛くないことに変更できませんか?」  噛みつかれる以外なら、何でもいい。リリスはシドに譲歩を持ちかけた。
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