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 ロンドンの象徴、時計塔ビック・ベン。人々の時を刻み続ける塔に併設したウェストミンスター議事堂はその昔、宮殿として使われていた。  左右対称に造られた広大な宮殿は、産業革命によって発展したイギリスに相応しい。そんな誇りを胸に、国会議員たちは議会の度に重厚な宮殿を闊歩する。  議会が終わり、議員たちが議事堂から出てくる。その前で待ち構えていたのは、珍しく地下から出てきたアルバートだった。背後にはブルームと呼ばれる四輪の箱馬車が控えている。この馬車は、ハンター専用馬車だった。  アルバートは議員たちに目を配る。その中に、見知った顔があった。 「――お久しぶりですね、ブラック少将。いや、元少将でしたね」  話しかけたのは、一人の紳士だった。アーチ状の入り口から出てきた紳士は、アルバートの声に反応した。  豊かな口ひげに、がっしりとした顎。くぼんだ大きな目は、初老の男性にしては血気盛んな光を灯している。同様に、大柄で屈強な体は年齢の衰えを感じない。  アルバートは振り向いた男に、毒気のない笑みを向ける。癖のある焦げ茶色の髪を掻きむしり、男は苦々しげに顔を歪めた。 「相変わらず憎たらしい奴だな、アルバート。今日は一人か? 番犬も連れず、よく私に顔を見せられたものだ。大した度胸だな」  アルバートの前まで近づき、デューイ・ブラックは厭味ったらしく言った。
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