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「ああ、神聖国民党のことか。あれの支援をしていることは、間違いない。私の息子があの党の顔をしていてな。応援せんわけにはいかんだろう」
当たり前だというような口ぶりだ。さらりと口から出た言葉だが、どこかきな臭く感じた。アルバートは片眉を僅かに吊り上げる。
「リチャード・マジソンは貴方の養子でしたね。貴方が遠縁の親戚とはいえ、ただの孤児を引き取るとは思いませんでしたよ」
「リチャードではない。あいつの名はユニだ。我がブラック家に引き取った際に、洗礼を受けなおさせ、与えた名だ」
それは失礼、とアルバートは言った。口先だけの謝罪だ。
「あの男は数年前まで詩人だったようですね。才能がなく、極貧生活を送っていたと聞きましたよ。家賃を払えずに道端で寝泊まりしていたこともあったらしいですね。当時の事を知る者達は皆、彼を大人しく印象の薄い男だと答えるほどにさえない男だった。薄暗く、陰気で卑屈そうに下を向いて歩いているような奴だったと口をそろえて言いますよ。――仮にも貴方の養子だというのに、苦労していたようですね」
「かわいい子には旅をさせろと言うだろう。甘やかすだけでは、子供のためにならんからな。若いうちには苦労を買ってでもしろ、というのがうちの方針だ」
「それでも、やはり息子が可愛いという事ですか。息子の所属する政党に多額の支援をしているそうではないですか。噂では、彼を党に紹介したのも貴方だと聞きましたよ。落ちぶれた息子に仕事を与え、党首にまで引き上げるとはなかなかの親ばかだ」
この男は昔から、自分に利のあることにしか興味がない。そんな男が、人ひとり養い、あまつさえ多額の投資をしているのだ。
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