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揺れる灯りが映し出した人影に、リリスは息を飲む。
独房の中央に置かれた一脚の椅子に、青年らしき人間が腰かけていた。その人の体は拘束着で固められて身体的特徴がほとんど分からない。
体に巻き付いた厳重な革のベルトと、口元と目を覆った拘束具。首は太い鎖で縛られている。鎖は天井に取り付けた滑車にかかり、鎖の端を引くと首が締まる仕組みのようだ。
唯一見えているのは、鼻と艶やかな黒髪、それから足先くらいだった。体つきからして、恐らくは男。何も穿いていない足先を見る限り、まだ若いことがわかる。
「顔の拘束具だけ外してやれ」
アルバートの命令に、すぐさま二人の看守が動いた。
リリスはアルバートに背中を押され、独房に入れられる。
「これからしばらくの間、お前のバディとなる男だ。挨拶ぐらいしたらどうだ」
「は、はいっ!」
リリスはアルバートに敬礼し、少しずつ青年に近づく。
数歩近づいたところで、足音に反応したのか拘束具を外された青年が顔をあげた。
暗闇でも光る赤い双眸がリリスを見据える。まるで獣のような三白眼に睨みつけられ、呼吸が止まりそうになった。
意志の強そうな眉に、形がよく薄い唇。染み一つない肌だが、男性的な骨ばった顔。絹糸のような黒髪から、鼻筋にかけて、すべてが完璧だ。
絵画の一部を切り取ったように美しい青年は、天使というより悪魔に近い。
そう思うほどに、青年の顔には激しい怒りと憎しみの色が滲んでいた。
リリスはぽかんと口を開いて青年を見つめていたが、はっと我に返った。
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