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「新種の細菌――それか、人為的に組み替えられた菌を培養し、簡易的に人間をファントムにする薬を開発した可能性があります。実は最近捕獲した患者にこの症例が、多数見受けられましてね。何者かが、この薬を使ってよからぬことを考えているのかもしれません」  一瞬にして、ハンターたちの空気が変わった。  今度はシドの様子もおかしい。リリスは視線をシドに向けた。  強張ったシドの顔は、普段の生意気で傲慢な表情とは違う。心なしか、顔色が悪い。手先を見てみると、かすかに震えている気がする。 「シド?」  小さな声で呼びかけると、シドはユリウスを見たまま拳を強く握りしめた。感情を抑えるような仕草だ。  リリスが不安に思っているうちに、アルバートたちは話を進めていく。 「……患者たちの共通項の中に、神聖国民党の支持者という項目があるな。――まずは、その線で調べてみるか」 「それじゃあ、患者たちと神聖国民党の関係者を洗ってみようか」  アルバートとリュシュアンは顔を寄せて、話し合う。しばらく話していたかと思うと、ふとアルバートの視線がシドに向いた。 「ファントム症候群の研究と言えば、何年か前にそんなことをしていた輩がいたな。――貴様なら良く覚えているだろう、シド」  そこで、どうしてシドの名前ができたのか。リリスは不思議に思い、首を傾げた。  次の瞬間、激しい怒号と共に爆発音にも似た衝撃が室内に響いた。 「今すぐ、そいつらに会わせろ! 俺がぶっ殺してやる!」  叫ぶようにシドが言った。 その手はアルバートの背後にある壁を突き破っている。シドが壁を殴ったらしい。握りしめた拳によって壁は粉々に砕かれ、廊下が見えていた。
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