1章-相棒は狂犬な番犬?

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「は、はじめまして、わたしは――」  あたふたと自己紹介をしようとした。その瞬間、眼前の視界が青年の顔に占拠された。  赤い瞳と視線が交わる。  魅惑的な瞳に囚われかけ、リリスの思考が止まった。美しい顔が近づいたことに羞恥を感じる暇もなく、青年の顔が視界から消える。  速い――。  ファントム・ハンターとなる者には、異常に発達した筋力や視力、聴力、声帯が備わっている。そんなハンターの中でも、隊長であるアルバートにずば抜けた才能があると言わしめる人物だ。 ハンターの端くれであるリリスでも捕らえられない速さで、青年はリリスの眼前まで詰め寄った。 「いっ……!」  首筋に鈍い痛みが走る。リリスが視線を下げると、首筋に噛みつく青年が見えた。 「貴様、何をしている!」  看守がすぐさま鎖を引く。鎖に首を絞められ、短く呻いた青年がリリスから離れる。首ががくんと後ろに下がり、青年の体が倒れていった。  一瞬だけ交わった青年の視線の冷たさにリリスは背筋を凍らせる。 「――なめんじゃねぇよ、愚民どもが。こんな小娘、口さえあればいつでも殺せるんだぜ? 俺をこんなところに閉じ込めて、タダで済むと思うなよ。体が自由になればお前ら全員、噛み殺してやる」  硬い石床に倒れ込んだ青年が微かに笑った。口の端から滴る血は、リリスの血だ。  恐怖に震えるリリスの首筋に、柔らかな布が押し付けられる。
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