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 部屋は年頃の少女の部屋にしては無機質だ。  ベッドに机、椅子、本棚。生成り色の壁に、刺繍一つない緑色の絨毯に至るまで、どれも簡素なものばかりだった。加えて隅々まで清潔に掃除されてるせいで、異質さが増していた。 (使用人もいないってのに、奇特な奴だな)  数少ない女性隊員は一人部屋が与えられているため、リリスも一人でこの部屋を使っている。シドも一人で部屋を使っているが、その理由はリリスとは少し違う。  シドはリリスをベッドに下ろす。  乱暴に落とされたリリスがベッドに仰向けに倒れた。のろのろとリリスが起き上がっている間に、シドは勝手に部屋をあさり、ハンカチを水差しの水で濡らす。  軽く絞った布をリリスの額に当てると、冷たかったのか、リリスは首をすくめた。 「これで冷やせ。後は、自分でできるだろ。なめくじ女は一人でじめじめしてろ」 「ううっ、ありがとうございます。ついでに、わたしはなめくじじゃないです」  お礼と文句を同時に言ったリリスの目には涙が浮かんでいる。それを拭いそうになった手を、慌ててシドは抑え込んだ。 (何やってんだ、俺は――)  自分の行動に吐き気がする。これ以上、心を乱されるのは耐えられない。今すぐここを離れなければ、自分が得体のしれない者に変わってしまいそうな気がした。  シドは吐き気を催すほどの不快感に、口元を抑える。これはリリスに対する不快感ではない。自分に対して感じていることだ。  アルバートの蔑むような視線が、頭の奥底にしまっていたシドの記憶を呼び覚ましていた。
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